Far away ~いつまでも、君を・・・~
そんな彩の姿を、尚輝はなんとも言えない気持ちで見送った。


おセンチな様子など、欠片もみせることなく、明るい笑顔を残して、彩は去って行った。


「尚輝、あと半年、悔いを残さないように頑張るんだよ。あと、京香ちゃんとお幸せに!」


最後に挨拶に行くと、彩はそう言って、いつものように、尚輝の背中をポ-ンと叩いて笑った。


彼女の後ろ姿を見送る尚輝の横に


「行っちゃったね、廣瀬さん。」


いつの間にか、京香が並んでいた。


「ああ。」


短くそう答えた尚輝は


(天女はとうとう背中の羽で、手の届かない所に飛び立って行っちまったな・・・。)


そんな感慨を覚えていた。


そして尚輝の、高校最後の1年が始まった。


3年間の集大成、そう意気込んで臨んだインハイ予選は、昨年の自分の記録は超えられたが、そこまでだった。結局、3年前の部男子歴代最高である斗真の記録に及ぶことは出来なかった。


「邪な動機で始めた割には、主将にまでなれて、まぁ上出来だろ。」


試合が終わって、出迎えてくれた京香に、尚輝はこう言って笑った。


そして引退し、受験勉強に勤しみ始めて、迎えたOB・OG会。彩は姿を現さなかった。


『大学に入っても、弓道の練習に励む毎日を送っております。部の行事と重なってしまい、会を欠席せざるを得ないのが残念です。みなさまによろしくお伝えください。』


出欠を知らせるハガキの近況報告の欄には、彩らしい綺麗で丁寧な字で、こう綴られていた。


「彩は本当に練習、頑張ってるよ。なかなか会えないし、LINEもなかなか繋がらない。」


仲睦まじく、町田と一緒に出席した遥は、そう言って苦笑いしていた。


それから、1年前の彩のように受験勉強を本格化させた尚輝。多くの同級生たちが、都会の大学を目指す中


「尚輝は本当にこっちに残るの?」


と京香に確認するように聞かれた。


「ああ。俺、高校の教師になって、弓道部の顧問になりたいんだ。」


「大学で弓道は続けるの?」


「それはまだ決めてないけど、弓道にはずっと携わって行きたい。その為に、地元の大学で勉強する。」


「そっか。そうなったら、離れ離れだね・・・。」


京香が、寂しそうに言う。美大を目指している彼女は、地元には残れない。


「まぁな。でも京香は卒業したら、こっちに帰って来たいって言ってたじゃん。」


「うん。」


「だったら、4年だよ。それに、そんな遠い距離じゃない。デート、いっぱいしようよ。」


「うん・・・。」


「だから、頑張ろう。」


不安そうな京香を、尚輝は力強く抱き寄せた。


半年後の卒業式。在校生の合唱する「さくら」に送られ、まさに桜舞い散る道を、京香と共に歩いた尚輝は


(俺は必ず4年後に、ここに帰って来る。教師として、弓道部顧問として。)


そう心の中で誓い、3年間過ごした校舎を後にした。
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