君と笑い合えるとき
───……私には,好きな人がいます。

なんて,突然誰かに打ち明けるのは恥ずかしい。

それでも,何となく胸の中で溢したのは。

緩んで戻らない,頬のせい。

じんわりと熱を持った,ほっぺのせい。

真っ暗な夜と,人の熱気にあてられた訳じゃない。

強いて言うなら,隣を歩く格好いいひとのせいだった。

今日は年に1回,特別な。

夏祭りの夜。

思わせ振りなんて,怒ることも出来ないくらい。

私の大切なその人は,そのまま私の大好きな人。

少し長い,後ろ髪。

誰より似合う,明るい藍の浴衣。

顔の真ん中には,透き通った鼻がついていて。

優しげな,柔らかい瞳から目をそらす人なんて,存在することすらありえない。

いつだってぽうっと,人の目を惹き付けて離さなくて。

中身なんて知らなくても,恋をしちゃうのは仕方ないことで。

今この瞬間も,2度見じゃ足りない顔の造形。

毎秒写真におさめたい,奇跡の人。

でも,だけどね。

中身だって誰にも負けないんだって,知ってるよ。

私は誰よりも一緒に過ごせてきたんだから。

幼馴染みとは,少し違う。

そんな関係。

川瀬(かわせ) 静流(しずる)と言う名前の彼は,私間宮(まみや)きこの1つとしうえで。

仲がいいかと言われると,正直よく分からなかった。

恋をする前から大好きで,お兄ちゃんみたいで,お母さんみたいで。

私を育てたと言っても過言ではない彼は,兎にも角にも,誰より近い人だった。
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