千燈花〜ETERNAL LOVE〜

花香りと切ない夜

 数日が経ちすっかり気持ちも落ち着きを取り戻した。最近では庭の草木の蕾が一斉に開きはじめ、色とりどりの花々に蝶たちが群がっている。いつもの東屋の石に座り春の霞が薄っすらとかかった都を眺めていた。


 岡本宮(おかもとのみや)の門の脇にぴったりとつけられた馬車の周りに朝服を着た高官らしき男達が見える。


 山代王様は今どこで何をしているのだろう…ゆっくり目を閉じた。今更どんな顔をして彼に会えばいいのだろう…私が突然いなくなり相当傷ついたはず…会えっこない…首を横に振り想いを打ち消した。
  
 はぁ、、、春の野草でも摘んで気を紛らわそう、少しくらい私も働かないと…。

 思い腰を持ち上げ、倉に寄り適当なサイズの籠を見つけ飛鳥川の土手へと向かった。川沿いの土手は野草の宝庫だ。ノビル、タンポポ、つくしも生えている。食べられる野草を見つけては籠いっぱいに摘んだ。

 何も余計な事を考えずに無我夢中になれる野草採りは楽しかった。まだまだ続けたかったが、籠はもう一杯だ。帰り道、次に来る時はもっと大きな籠を持って来ようと決めそのまま厨房へと向かった。籠を体の前に抱え直し、厨房へ通じる曲がり角で突然誰かとぶつかった。

    「ひゃあっつ!!!」

 ぶつかった拍子に籠を地面に落としてしまった。籠の中から野草が勢いよく飛び出した。

    「す、すみません」

 中年の小太りの男は慌てて謝ると、地面に散らばった野草をかき集めながらチラッとこちらを見た。見たことのない顔だ。

 「大丈夫よ、でもあなたこの宮の者ではないはね?…」

 「はい、私は朝廷の薬草庫で働く者です。春になり近くの山で薬草や山菜が沢山採れたので各お屋敷を回りお届けしている次第です」

 男は竹を編み込んでつくったような筒状の大きな籠を背負っている。中を覗くと半分ほどの野草がまだ残っていた。

 「そうなのね、ありがたいわ、ご苦労さま」

 「厨房に入ってすぐの台の上に置いておきましたので後ほどご確認下さい、では失礼いたします」

 男は軽くお辞儀をすると足早に立ち去った。男が帰り際に立ち止まり、もう一度振り返ったことに全く気がつかなった。
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