可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
カオスの口から発射された三連射の業火の玉を防ぐ壁はもう何もない。


「キャァア!」


もはや衝撃波と呼べる暴風と熱が、中庭に一人立っていたベアトリスに猛烈に吹き付ける。吹き飛ばされたベアトリスは石の壁に身体を打ちつけた。


「うぐッ!」


三発放たれた火球の一つが魔王城の監視塔にぶつかり、塔を薙ぎ払ってしまった。魔術陣から抜け出そうと、上へ上へともがくカオスも冷静ではない。


首をあちこち動かし狙わぬままに放った三つの火球は方向を逸れ、魔王城に当たったのは一発だけ。あとの二発は運よく空中で爆発した。


壁に身体を叩きつけられたベアトリスは砂ぼこりの中で痛む身体をなんとか持ち上げて座り込んだ。衝撃で揺れる頭を抱え、消え去った塔をチカチカする目で確認した。


(あんなもの魔王城の城壁に当たったら、城内の国民が吹っ飛んでしまうわ)


ベアトリスの背筋がゾクゾクした。自分の判断で国民を死なせてしまう。だが、ぷるんを守ることも、王妃の務めだった。


「ぷるん」


全身が自分のものでないように痛む。ベアトリスの額からは血が流れ、目を伝い、涙のように頬に血の轍をつけた。


真っ黒になったぷるんが、座り込むベアトリスの肩で心配そうに体を揺らした。



「大丈夫ですわ、ぷるん様。お役目ご苦労様です。大変な功労でしたわ」



黒い楕円体になってしまったぷるんに、ふらふらのベアトリスは優しく微笑んだ。



「ぷるん様も、魔国民のお一人です。私がお守りしますわ」


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