不埒な上司と一夜で恋は生まれません
専務たちと別れたあと、耀は振り返りながら、
「なんか緊張したな。
スパイの気分だった」
と言う。
「いや、スパイ舐めないでくたざいよ。
って、私もそういう組織にいただけで、ただの事務員なんですが」
と呟きながら、和香は坂を上がっていた。
いい天気だ。
冬の薄青い空が坂の上にある団地の上に広がっている。
「どうかしたのか?」
と耀が訊いてきた。
「いえ……。
なんか今、人生の目標を失いそうになって」
「お前の人生の目標ってなんだ?」
と問われて答えなかった。