不埒な上司と一夜で恋は生まれません
「どうですか? 専務」
と和香が席に座り直すと、専務は引きつった顔で、腕を回しながら、

「いや~、ありがとう。
 肩が軽く……

 いやっ。
 これはほんとうに、軽いぞっ!

 すごいよっ、和香くんっ。
 ありがとうっ」
と途中から本気で喜び、驚いていた。

「そうですか、よかったです。
 またいつでもマッサージしますので、おっしゃってください」
と笑った和香は、チラ、と常務の方を振り向いた。

 常務は、いきなり立ち上がると、

「しまったっ。
 今日は、二時から大会議室で会議だったな。

 急ごうっ、渡辺くんっ」
と前でまだ食べている秘書に向かって言い、慌てて社食を出て行った。

 みんな苦笑いして見ていたが。

 ……常務、まだ十二時半ですよ、とは誰も突っ込まなかった。




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