キミと創る音

音と出逢う

「オトコノコがピアノ弾くだなんて変だよ!!」ーーー
今でも何度も夢に出てきて思い出す。私が小学生の頃に少女に言われた言葉だ。母がプロのピアニストだったこともあり生まれてからずっと音楽に囲まれていた私はプロのピアニストになりたかった。幼い私にとってその言葉はナイフよりも痛く心に突き刺さってしまった。そして私は二度とピアニストになるという夢を言わなくなってしまった。

僕は高校生になった、ピアノは今でもたまに弾いている。だが幼い頃のように自由に弾くのが怖くなってしまった。また何か言われて傷つきたくない。ピアノが弾くのが苦しい時もある、でも僕はピアノが好きだ。この学校には立派な音楽室があってピアノがある。僕は放課後にそのピアノを無性に弾きたくなる時がよくあった。週に1回程の時もあれば3日連続で弾きに行く時もあった。夏のある日に放課後誰もいないのを確認していつものようにピアノを弾いていた。クーラーがなかなか効かず、暑かったのでいつもと違ってドアと窓を開けて弾いていた。部活は今日は休養日で誰も学校に残ってないと思っていた。3曲ほど弾き終わると後ろから手を叩く音が聴こえたので思わず立ち上がってしまった。「ごめん、驚かせる気はなかったんだけど素敵な音が聴こえてきたから。」そこにはよく見る顔があった。「北見奏音君だよね?俺同じクラスの灘井晴哉。」確かに彼と僕は同じクラスだ。だが彼とは今まで関わることなく過ごしてきていた。僕がピアノを弾けるのはあまり知られたくない。「灘井君お願いがあるんだ。」彼は何だい?と首を傾げた。「僕がピアノを弾けること黙っといて欲しいんだ。恥ずかしいし。」と適当にそれらしい理由をつけて言う。彼は少し考えて「分かった、黙っておく、その代わりに僕の頼みを聞いてくれない?」僕が頷くと
「俺と一緒にバンドを結成して欲しいんだ!」と彼は突拍子もないこと言った。
同じクラスの彼にバンドを結成して欲しいと頼まれた日から3日経った、思いもしなかった頼み事に僕は返事は少し待ってくれと言ってその日は別れた。放課後いつ断ろうか悩んでいた時彼に声を掛けられた。「今日、近くのライブハウス行くんだけど一緒に行かない?」「あ、うん。行きたい。」今日は特に予定はないしライブハウスの帰りに断ろうと思った。ライブは僕も知る最近有名なバンドが出るそうだ。「北見君はライブハウス初めて?」「初めてだよ、すごく楽しみだよ、誘ってくれてありがとう。」と答えた。実際にコンサートには行ったことはあるけどライブハウスは初めてだったので僕はわくわくしていた。そしてライブが始まった。演奏者の、観客の、会場の熱気と汗に僕は酔いそうになった。音に合わせて照明が光り輝く、圧巻のステージだった。僕はこんな中でステージに立つのはどれだけ気持ちいいんだろうと考えてしまった。ライブは2時間だったが僕にはあっという間に感じられた。彼と別れる間際に僕は「君とバンドをやりたい。」と告げた。彼はとても嬉しそうに笑ってまた明日と言った。

僕達は放課後にバンドの話をすることにした。どうやら晴哉は中学の時にもバンドをしていたそうだが高校受験を機に解散したとのことだ。「それでどうする?」バンドやると言っても僕は何をどうすればいいのか分からなかった。とりあえずあと最低でも1人は増やしたいよね、2人でバンドは流石にきついとのこと。そんな話をしていた時教室の前を1人通り過ぎた。「あ、あの子ギター上手い子じゃん。」確かに通り過ぎた子はクラスは違うものの授業で音楽を選択していてギターを弾くのがずば抜けて上手い子だった。「あの子なんていいんじゃない?」と冗談混じりに言うと晴哉が椅子を倒して教室から出た。僕はあまりのスピードに何が起きたのか分からなくて呆然としていると晴哉はギターの彼を連れてきた。「バンドやってくれるってさ。」今の一瞬の間にどんな会話があったらそんなことになるんだと思いながらも僕も喜びを隠せなかった。「俺でよければ。」はギターの彼は言った。大賛成、逆に断る理由がない。ギターの彼は名前を梅下誠と言い、ギターよりもドラムの方が得意だそうだ。「よし、まずは楽器決めるか!俺はベースが得意かな。誠はドラムで決定だな!」僕はそこでふと思った、伴奏や弾き語りならピアノが使われることはあるけどバンドでピアノ担当がいることは少ない。「俺は奏音のピアノの音が好きだ、だからバンドではお前が軸になって欲しい、曲もピアノを主役に作る。」と晴哉が言った。「俺、奏音のピアノを初めて聴いた時この音に合わせて演奏したいって思ったんだ。」
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