天使が消えた跡は
第2章 秘密の思い出
 教壇に立った担任はゆっくりと座り込み、尻もちをついた形になってしまった。ぷるぷると震えた指で薫の頭の上に載っている妖精を指さしている。

「あー……、これは妖精です……」

 と言った所で、理解などできるわけもなく口をぱくぱくとさせる担任に複数のクラスメイトがネットニュースの内容を説明し始めた。

「婚約者……? は、百歩譲って一応理解しよう……と思うが、それは何だ……」

 相変わらず座り込んだままの担任に、薫も答えたいところだが、薫自体もよく解っていないため、説明のしようがない。

「妖精さん、結局あなたは何なの?」

「だから、ぼくは薫ちゃんの付き妖精だって言ったじゃない。王子様から命令があって、薫ちゃんに会いに来たんだよ。妖精だよ!」

 そういって、売り出し中のアイドルよろしくあざとく左人差し指で自分の頬をつん、と触れる。

「だそうです。もう私は否定するのに疲れました。朝起きたら居たんです」

 それにしてもこの子かわいいね~。など、のんきに話しかけるクラスメイト達。意外と若者とは順応性が高いのかもしれない。

 その様子を見ていた担任も、諦めたのか、自分だけ尻もちをついたままな事実に気付いて恥ずかしくなったのか、おもむろに立ち上がり出席簿を開き始め、無事に一日の授業の始まりだ。




 授業は滞りなく過ぎて行ったが、授業の合間には当たり前のように妖精の元にクラスメイトが集まり、質問攻めにされた。

 しかし妖精も真に迫った質問に対してすべてはぐらかすような説明しかせず、ぼくはかわいいからみんなにモテモテだね、なんて愛想を振りまくばかりだった。

 問題は授業が終わった後だった。

 校門で抑えていたマスコミも多勢に無勢で学校内に入り込んでしまい、女子寮の近くまでやってきてしまった。

 とはいえそこは学校。さすがに女子寮の中までは侵入させず、無事に自室に戻ることが出来た。

 それでも教師やクラスメイトの陰に隠れるように部屋まで戻るのにはそれなりのストレスが掛かった。

 部屋に戻った薫はそのままベッドに倒れるように仰向けに寝転がる。


 『ゴンっ』


 寝転がった頭上から鈍い音がした。

「いたぁい……」

 薫のベッドはパイプベッド。寝転がった頭上にパイプの柵があり、その奥には本棚が置いてある。

 つまり、頭の上に乗っかっていた妖精がそれらに体をぶつけてしまったと言うわけだ。

「ごめんごめん、ついね」

 起き上がると枕の上でうずくまって、自分の髪の毛をわしゃわしゃと撫でまわしている妖精の姿が見えた。
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