クールな同期と甘いキス

6.誤解のハグ


三雲君への気持ちに気が付いてしまった私は頭を抱える日々が待っていた。
それは一日一回のハグ。
三雲君は私の気持ちなんて知る由もないから、今まで通りハグしてくる。
料理をしている時、テレビを見ている時、歯を磨いている時、寝る前……。いつ何時されるかわからないハグは相変わらずなんだけど、問題は私だ。
もう、ドキドキし過ぎて死んでしまいそうなくらいだった。
ついでに三雲君にこのドキドキが気付かれやしないかと毎回ハラハラする。
顔は真っ赤だし、ハグされると身体が硬くなるし、心臓の音が聞こえないか不安になって腰が引けるし……。
絶対不自然だって! 明らかに今までと違うもん。

「どうしたものか……」

仕事を終えてため息をつきながら駅に向かっていると、キラキラとしたイルミネーションが見えてきた。
あぁ、綺麗だな。乱れていた心が落ち着く。
そういえば同期の忘年会も明日に迫っていた。

「楽しみだな」

新任研修で同期たちとはある程度親しくなっていた。
みんな優しいいい人ばかりで、同期会に出られない私のことは何か事情があると察してくれている。
今回、出席できると伝えたら、社内で同期に会うとみんな笑顔で声をかけてくれた。
頬が緩みながら、ふと横に目を向けると駅に併設されているショッピングモールのクリスマスツリーが目に入った。
そして私の目の前にはポスターが貼られており、そこには『クリスマスまであと少し。プレゼントを買うなら今!』と書かれていた。

「プレゼント……ハッ!」

そこで重要なことに気が付く。
クリスマスまであと一週間だ!
今まで全く縁がなかったけど、さすがに今回は三雲君になにかプレゼントした方がいいよね!?
好きになったからとかじゃなくて、いつもお世話になっているんだし、たまには私からお礼と感謝を伝えないと……。
でも同期会に出るから今月の予算が……、あ、ボーナス出たんだった。
毎年ボーナスは全額借金返済に使っていたけど、今年は少し残してそれで何かプレゼントでも買おうかな……。
でもプレゼントっていっても何をあげたらいいんだろう?

誰かに物をプレゼントしたことなんてない。小さい頃、父の日に肩たたき券をお父さんにあげたくらいだ。
さすがに三雲君に肩たたき券をあげるというわけにはいかない。
そもそも三雲君は何が好きなんだろう。欲しいものはあるのかな? 一緒に暮らしているのにそんなことも知らない……。
プレゼントしたら迷惑かな? でも何かあげたいし……。
立ち止まってうだうだと考えていると、トントンと肩を軽く叩かれた。

「なに百面相しているの? 白石さん」
「川端君!」

川端君がニコニコと立っていた。
そして私の横のポスターを見て、「はは~」とニヤリと笑う。

「三雲にプレゼント買うの?」
「ええ!?」

目を丸くして驚くとさらにニヤァ~と笑う。
しまった、カマかけられたんだ……。

「そっか、白石さんも三雲かぁ~。あいつ、本当にモテるな」
「あの……、このことは三雲君には……」
「もちろん言わないよ。当たり前でしょ」

「で?」と川端君はポスターを指差す。

「何買うか決まったの?」
「ううん、全然。人にプレゼントとかしたことないから見当がつかなくて……」

うな垂れると川端君が手招きをした。

「俺で良ければ一緒に探してあげるよ」
「いいの?」
「三雲の好きな物はわからないけど、同じ年の男としてアドバイスくらいはできるからね」

川端君がキラキラして見える。今の私にとっては救世主だ。

「ありがとう!」

嬉しくて満面の笑みでお礼を伝える。

「俺も彼女へのプレゼントを買う所だったからちょうどいいんだ」

そう言う川端君に感謝しながら二人でショッピングモールへ入っていった。

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