エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
週一回行くか行かないか程度だった弁当屋に、週三回以上通うようになった頃には彼女も俺を常連客として認識したようだ。

『いらっしゃいませ。以前お好きだとおっしゃってた唐揚げ弁当、今日はサービス価格ですよ』

『遅くまでお疲れ様です。野菜のお惣菜がおすすめですよ。それともお疲れの時はがっつり派ですか?』

些細な気遣いの言葉が嬉しかった。にっこり微笑まれるとどきっとした。
三十を過ぎて何をと思うが、恋愛はあまり経験豊富な方ではない。高校時代は勉強一筋。努力実って入学した国立大学時代、女子と交際したことはあったものの、長続きせず終わってしまった。
どうやら俺はつまらない男らしい。勉強ばかりで気の利いたデートもできないし、愛情も見せてくれないとのこと。何人か交際したが、皆同じような理由で去っていった。

恋愛に向かないのだろう。そもそも俺自身、彼女たちを引き留める労力を惜しんでしまったのだから、その程度の興味しか持てなかったのだ。もう不幸な女性を増やさないようにしようと、俺の見た目だけで交際を希望する女性は片っ端から断り続けた。
入省してからもその繰り返しで、気づけば三十を超えていた。

俺は恋愛すべきでないとわかっている。だから、十は若いだろう可愛い女の子に、妙な気を起こすべきではないのだ。感情の整理はついている。
弁当屋に通ってしまうのは日々の癒しとして彼女の笑顔を見たいから。所謂“推し活”に近いかもしれない。彼女のために売り上げに貢献しているのだ。このくらいのささやかな楽しみが三十代の男にはちょうどいい。

(だけど、あと半年であの笑顔も見られなくなるのか)
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