敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜


 勝利を収めたハルディオ帝国は和平条約締結の際にルパ王に対し、属国にしない代わりに神の恵みを持つ王女との婚姻を要求してきた――いわゆる、政略結婚である。
 折良く、ルパ王国には妙齢となる王女・コーレリアがいた。


 ルパ王族特有の鮮やかな橙色の髪に緑色と青色が交じった碧色の瞳を持ち、白くて滑らかな肌とバラ色の頬、ぽってりとした唇は魅力的。全体的に華やかな容姿をしたコーレリアは王国一の美姫だと絶賛されていた。
 神の恵みも持ち合わせているコーレリアは完璧な存在だ。狒々爺(ひひじじい)と噂される皇帝もさぞや満足することだろう。

 しかしそんな皇帝の元へコーレリアを嫁がせるのは非常に惜しい。
 ルパ王はコーレリアを溺愛していたし、彼女は風を操る神の恵みを持っていた。海洋産業を主軸としている王国にとっては失いたくない力の一つだった。
 その上コーレリアは大公家のギルバートと想い合っていたため、皇帝との結婚を徹底的に拒絶した。


「嫌よ! 嫌!! どうしてわたくしがお父様の尻拭いのために年寄り皇帝の元へ嫁がなくてはならないの? そんなの絶対に嫌! ギルバート様以外との結婚なんてあり得ないんだからあ!!」
「コーレリア、頼むから一度落ち着きなさい」
「落ちつけですって? 私の人生が台なしになろうとしているのに落ち着けるわけないでしょお!!」

 顔を真っ赤にして泣き叫ぶコーレリアを目の当たりにしてルパ王は頭を抱えた。
 コーレリアは美しい容姿をしている反面、時にルパ王ですら手に負えないほどの癇癪持ちなのだ。
 ルパ王が困り果てていると二人の様子を眺めていた王妃がくすりと笑った。

「陛下もコーレリアも悲嘆する必要ありません。帝国が要求してきたのは神の恵みを持つ王女です。その二つを有していれば誰でもいいということ。何もコーレリアが指名されたわけではありませんわ」
 王妃の言葉を受けて二人はハッとした。

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