敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜


 手を下ろして呆然としていると不意に第三者の声が聞こえてきた。
「殿下、ビクトリア様。こちらにいらしたのですね。準備が整ったので案内します」
 トラヴィスの陰から現れたのは近侍のフレディだ。
 フレディは二人をガラス温室がある方へと連れて行く。

 オーレリアは茫洋とした瞳で三人の後ろ姿を眺めながらぽつりと呟いた。
「トラヴィス様の運命の相手は……あの令嬢なのね」
 その途端、胸にじくじくとした痛みが走った。

 オーレリアは自分の胸の上に拳を置いて、気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返す。しかし、杭が深く突き刺さったみたいに、胸の痛みは消えなかった。


 結局その日の夜はあまり寝付けず朝を迎えてしまった。

 着替えを済ませたオーレリアが口元を手で覆って欠伸をしていると、トラヴィスがフレディを伴って訪ねてくる。こんなに朝早くからどうしたのかオーレリアが尋ねると、トラヴィスが思いがけない言葉を口にした。


「今から陛下のところへ案内する」
「……陛下のところ?」
 遂にこの日が来た。これで漸く滞っていた皇帝との結婚話が進められる。

 待望の瞬間のはずなのに、嬉しいはずなのに、オーレリアの頭に浮かんだ最初の言葉は「嫌」だった。


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