― 伝わりますか ―
「柊乃祐様……」

 気付けば影狼の袖が掴まれていた。俯くと、梢が何か言いたそうに顔を覗いている。

「何も喋らない方がいい……今、止血するから」

 柊乃祐は梢に狂った笑みをかけた。彼女も気付いたのであろう、放させようとした彼の手を、もう一度掴み返す。梢は黙ったまま首を振る。血の気の引いた真白い肌。死に際だと悟ったのかも知れない。

「柊乃祐様が、影狼様であっても……そんなことはどうでもいいんです。ただ、梢は柊乃祐様のことが……──」

「梢さん──」

「ねぇ、柊乃祐様、みんなで……海辺で歌った唄──覚えていますか……」

 それだけを言い途端に咳き込んだ。血の(したた)り落ちる細い指が、柊乃祐の手を強く握り締める。赤黒く広がり固まる、背中から腹部へと貫通した傷口は、桜色の衣をまるで開花させたかのように深紅に染めていった。

「……『朝顔の微笑み』?」

「歌って……ください」

「えっ?」

「歌ってほしいんです、それがあたしの、気持ちなんです……」

 柊乃祐は仄かに戸惑いを示したが、集まってきた子供達をなだめて皆で歌い始めた。

「~あたたかな朝陽と 沢山の花びら
  そよ風に揺れてる 溢れ出す微笑み……~」


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