― 伝わりますか ―
 そうして右京を一瞥した明心は目を閉じ、深く茶をすすって、仏のような微笑を見せた。

「生きて……いる──」

 ──わしの時代は()うに終わった。

 悠仁采の──いや、橘 左近の言葉が、ふと右京の脳裏をかすめた。

「少しだけ……分かった気が、致します……」

 右京の表情にも、微かに笑みが戻りつつあった。

「あなた様は未だお若い……それを真に知り得るには、沢山の時間と経験が必要でしょう。が、切り開いていくのは、あなた様次第──」

 その言葉に真摯な眼差しで頷いた右京を見て、明心は彼の心の奥底に灯った美しい燈を感じた。明心も又、大きく頷く。

 ──生かされるのではない。生きるのだ──。

 二人で、そして次の世を──。



■お忘れの方もいらっしゃるかも知れませんので・・・明心は葉隠の頭領の仮の姿、柊乃祐は忍びの姿でない時の、影狼(かげろう)の名前です。


< 100 / 112 >

この作品をシェア

pagetop