― 伝わりますか ―
 しかし──。

「何故にお話しくださらぬのかっ。いつまでこうしているつもりですっ」

 最後の一人を倒してから小半時。中盤焦りを押し殺して、悠仁采が口を開くのを待ち続けた伊織であったが、さすがに堪忍袋の緒が切れたらしく、切り株に腰掛けた彼へと疑問をぶつけ始めた。

 悠仁采は右京達の去った方角を望みつつ、日暮れに向け強くなる風を受けることに喜びを感じていた。木々が揺さぶられ、枝が(かし)ぎ、奏でる音。その隙間から覗く赤みを帯びた日光の暖かさが、頬に心地良い。

 そして刹那、伏せていた瞼を上げて、伊織へと目を向けた。

「役者は揃ったようだ……話そう」

 その声に振り返った伊織は、一瞬ぎょっとして声も出ぬ様子だった。

「死に損ないに良う会いに来てくだされた……影狼(かげろう)殿」

 悠仁采は動じた風もなく、目の前に現れた葉隠の忍者を見上げていたのだ。

 影狼も声もなく悠仁采を見下ろすが、伊織には一切の気配も感じさせず懐へ入り込んだ忍びの男と、それを手に取るように把握していた悠仁采に、近付く勇気はなかった。


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