― 伝わりますか ―
 それから数日が、矢のように飛び去った。

 月葉は年の頃二十歳(はたち)に満たぬほどの娘で、傷が癒えると良く働いた。日中の大半は悠仁采と共にし、書を読んだり茶を立てたり、そんな遊び事に時を費やし、数日前を思い出すこともままならぬように思われた。

 そんな姿を誰よりも哀れと見詰めているのは、当の月葉よりも、悠仁采であったのかも知れない。

 彼の推測は──元々断定であったが──断定として押し固められつつあった。

 書を写しても茶を立てても、そこらの町娘には到ることの出来ぬ、才能とでも言われそうな技術を備え、特に茶は天下一品とも言える。

 いつの間にか、彼が月葉以外の茶を飲まなくなったのも頷けよう。

 ──不安だ……。

 と、悠仁采が初めて思ったのは、月葉を助けて間もなくのことであった。

 彼が推測するに、彼女は尾張に隣接する美禰(みね)領主 水沢龍敏が娘、月姫であった。

 かつて父から勘当され、僧にもならず気楽に暮らしてきた悠仁采は、もはや世間から離れて久しい。故に世の情勢にも(うと)くなっているのだが、此度(こたび)は側近の一人を山から下ろし、数日にして美禰がどのような状況に陥っているのかを把握することとなった。


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