― 伝わりますか ―
 悠仁采(ゆうじんさい)は──死を、夢見ていた……。

 彼は、死にたがっていた。

 刀傷と凄まじい火傷を負い、遥かに続く沼の中を独り漂う悠仁采は、もはや死神に魅了され、大河に身を委ねた一艘の笹舟の如く、あてもない流れの中を彷徨(さまよ)う。

 気は()うに失っていたが、何処か意識の奥で懐かしい想いを感じてはいた。

 ──何十年という歳月であっただろう……。

 信長の首も、天下統一の栄誉も……そんなものは欲しいなどと、一度たりとも思わなかった。ただそうしていれば忘れていることが出来た。──『月葉(つきは)』を。

 『月葉』という安らぎを。

 自ら戦火の中に身を投じることで、死による安らぎを求めずにいられることが、彼の最良の人生であったことは云うまでもない。彼自身は仄かに死を畏れていたのだ。

 しかし、今は違っていた。時は既に満ち足りていた。というより、彼は少々長く生き過ぎた()がある。


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