― 伝わりますか ―
「何故──」

 悠仁采は(とこ)についたまま問う。

 秋に出逢った瞬間の、あの戦慄を帯びた余力は、もはや彼には残されていなかった。全身に糸のような傷が散らばり、それはぱっくりと恐怖の口を押し開けている。所々に見られる火傷もかなりの疲労をもたらし、湯が沸々と(たぎ)るように、悠仁采の身体を熱くさせるのだった。

 右京が一度(ひとたび )炎に水を掛けるや、焚き火は白い煙を立てて鎮まり、闇を創った。

 月の光を頼りに、悠仁采の傍らに用意したもう一つの寝床に潜り込み、溜息をつく。

「私は誰も憎みはしない。我が家が崩れたのも、誰の所為でもないのです。ただ崩したのが織田であったというだけ。たとえ織田がそうしなくとも、誰かが橘を潰すでしょう。それが戦乱の世の条理です」

 闇の中で何かが蠢いた気がした。悠仁采か右京か、それは分からない。ただ「何か」だ。

 悠仁采は何も答えず、また問いもしなかった。右京の方から薄明かりへと目を移し、ゆっくりと息を吐く。


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