― 伝わりますか ―
「それはこの森のことでしょう……右京殿はこの森に救われ、この森に生かされている……しかし、その所有者は織田家なのです」

 そう言って悠仁采の手から椀を受け取り、先程と同じ位の量にして返そうと彼の顔を見た。

「……朱里殿?」

 此度(こたび)は戻された椀を受け取らずに、怪訝な表情で伊織を凝視した悠仁采の心の内は、如何(いか)なるものだったのだろうか。

 織田の領地で暮らす敗北者の嫡男。其処を訪れる“織田ではない”青年武士。──ならば伊織は──?

「詳しく説明致しましょう……私は……正式には織田であって、織田でない者です。つまりは織田の姓を持たない、織田配下の者」

 囲炉裏の端に一先(ひとま)ず椀を置いた伊織は、苦笑を帯びた溜息をつき、観念したように向き直った。

「では……?」

「曽祖父の時代、信長様の父上──信秀様に命を救われた水沢家の嫡男に当たる者……水沢 敏信と申します」

「水……沢……」


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