YUZU

デジャヴュ

 柚葉の言う通りだった。

 キャベツ丼を一口食べた瞬間から、柚樹は箸が止まらなくなっている。
 あっという間に、どんぶりの半分を平らげてしまった。

 中身は野菜ばっかりなのに、いや、むしろ野菜が多いからしつこくなくてドカ食いできちゃうのかもしれない。
 キャベツのしゃっきりした食感と甘み、キノコの旨味、時々出てくる豚肉の脂、それらをまとめる半熟の溶き卵。
 溶き卵に絡まったかつお節からも魚の旨味が染み出てくる。
 甘辛味噌味の具材とごはんとの相性が、まさにオレ好み。
 そこに柚子の酸味と皮の苦みも加わって、口の中をさっぱりさせてくれるから。

「これ、本当にペロリとイケるよ」
 言いながらどんぶりをかき込む柚樹に、「でしょー」と柚葉が満足げに鼻を鳴らす。

 でも、これと似た食べ物を、昔どっかで食べた気がするんだよな。

 正確には同じじゃないけど、でも、この、『キャベツ丼』というメニューを食べたことがある気がする。
 しかも、オレはこれがわりと好きだった気までするんだけど。

 んなわけないよな。

 母さんはこんな大雑把な料理は作らないし、だからと言って、レストランで出るメニューって感じでもない。

 給食の献立ならあり得るかな、と思ったけど、小6ともなれば、給食のメニューもかなり知り尽くしている。
 あんまり出ないようなレアメニューでも、6年間を通せば何回かは食べていた。

 でもって、キャベツ丼なるメニューを給食で食べた記憶がないのだから、給食の献立にないのだ。
 やっぱ、小学校の肉みそに味が似ているからかな。
 そういや、初めて給食で肉みそを食べた時も、これどっかで食べたことがあるって思ったっけ。

 う~ん。まあ、ともかく。
 
「オレ、これ好きかも」と、柚樹は言った。
「知ってるわ」と、柚葉が断言する。

「知ってるって」
 またテキトーなこと言って~と、柚葉を見た瞬間、柚樹はどきりとした。
 穏やかな表情で微笑む柚葉と頭の中の女の人が重なって見えたからだ。

「……柚葉はどう?」
「え?」

「美味しい?」
「もっちろん! この食欲を見たらわかるでしょ! 柚樹の料理が食べられるなんて夢みたい」

 いつものようににっこり笑った柚葉が大口をあけて、わざとらしくどんぶりをかき込んでみせる。

「んな大袈裟な」

 なんだろう。この感じ。
 柚葉のこういう元気な笑顔も、昔からよく知っている気がした。

「なんか、さ。自分の作った料理を誰かが美味しそうに食べると、嬉しいかもな」

 また柚葉が微笑む。
 優しくて、穏やかで、包み込むみたいな温かい感じで。
 この優しい目も、温かい感じも、よく知ってる気がする。
 柚葉のことを、オレは……知ってる?

 昔、柚葉とオレは会っているわけだから、覚えていなくても懐かしいって思うのかもしれない。
 でもなんか、そういうんじゃなくて。

 上手く説明できないけど、今の柚葉を知ってるっていうか。
 柚葉の、中身を知ってる……みたいな。なんだろう。つまり、どういうことなんだろう。
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