いつどこで誰が何をした


「そろそろ時間です」
僕の後ろの隅に座っていた警察の人がそう言った。

聞きたいことは聞けた。
僕は満足だ。

「今日はありがとうございました」
軽く会釈をして席を立つ。


「ひかる」
!
さとるさんが…僕の名前を、呼んだ。
思わず顔を上げると、席を立っていた彼が真っ直ぐ僕を見ていた。

「…は、い」
「私が死んだら、遺産は全て君のものだ。それなりの額はある。大切に使いなさい」
…
「ありがとうございます」

「それからもう一つだけ。
君に…当たり前のことを、何一つ教えてあげられなくて…父親になれなくて…すまなかった」
……。

苦しそうに笑い、さとるさんは背を向けた。
黒い結われた髪が見える。
決してガタイがいいわけではない後ろ姿。


……。


「父さん!」
今度は僕が呼び止める。初めて口にした言葉。
目を丸くして振り向くさとるさん。


「僕、今退屈じゃないよ」


目が合ったまま、動かない。
少しして、さとるさんがふと笑った。


「さようなら、父さん」
沈黙を破った。
「……ああ…さようなら、ひかる」




「ひかるさん!」
面会室を出ると、久遠さんが駆け寄ってきた。

「ただいま」
「お帰りなさい…あの、どうでしたか?」
「いろいろ話ができて楽しかったよ」
「そう、ですか…」
心配してくれてたのかな。

「あの、どんな方でしたか?」

……

「…普通の、人だったよ」


< 202 / 334 >

この作品をシェア

pagetop