君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
どこに行こうかと談笑しながら食を進めるのはあっという間の時間だった。

亮平にとって誰かとこんなに楽しく話をしたり、ときに緊張したりするこの感覚はいつ以来だろう。
忘れていた感情が揺り動かされるような、そんな気持ちに戸惑いつつも、この先に待ち受ける未来に期待と不安が入り混じる。

そんな揺れる亮平の心を知ってか知らずか、陽茉莉は「亮平さんって呼んでいいですか?」と聞いてくる。

そうやってどんどん亮平の気持ちを絡めて捉えて離さない。

「……俺も名前で呼んでいい?」

「もちろんです。陽茉莉と呼んでください」

「……陽茉莉」

「はわわっ」

陽茉莉は両頬を押さえる。
亮平が不思議に思って首を傾げれば、「やばいです。すっごくドキドキしました」と興奮気味に頬を染めた。

そんな陽茉莉を見ていると、亮平の方こそ柄にもなくドキドキと心を揺らしてしまう。

一体どうしたというのだ。
こんな感情は捨てたと思っていたのに。

お会計をして店の外に出れば、長谷川が車を着けて待っていた。

「矢田様、ご自宅までお送りしますね」

「えっ、そんなそんな。最寄り駅で大丈夫です」

「そういうわけにはまいりませんよ」

「そうだよ、陽茉莉。遅くなってしまったし、送らせて」

「でも……」

「それに、もう少し陽茉莉と話がしたい」

まっすぐに見つめられてぐっと言葉に詰まる。
そんなことを言われたら首を縦に振るしかなくなるではないか。

陽茉莉は「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言って、厚意に甘えた。

陽茉莉の方こそ亮平ともっとお喋りしたかったし、離れがたくなっていた。もっともっと、彼を知りたいと思った。
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