君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
初めてひとつになれた、その事実は恋人としてとても重い。より二人の心が繋がった、そんな気がするのだ。

「陽茉莉、髪の毛が乱れてしまった」

「ふふっ、大丈夫」

陽茉莉は結っていた髪をほどくと手櫛で綺麗にひとつに纏め直した。そんな仕草さえも、色っぽいなと亮平は見とれてしまう。

「ん?」

「いや、何をしても陽茉莉は可愛いなと思っただけだよ」

「そんなこと言われると帰りたくなくなっちゃう」

「帰したくないけど」

亮平は陽茉莉の腰をぐいっと引き寄せる。それに合わせてぴっとりと身を寄せる陽茉莉。離れがたい気持ちはお互いに同じ。

けれど陽茉莉はそうっと離れる。

「明日も仕事だから帰らなくちゃ」

「そうだな」

「名残惜しいけど」

「うん、本当に。陽茉莉さえよければ泊まっていって」

やっと掴んだ彼女を離したくない。
亮平は陽茉莉の手をぎゅっと握る。陽茉莉もそれに応えるように優しく握り返す。

ああ、この手を離したくない。
ずっと一緒にいたい。

けれど――。

「本当に離れたくないんだけど……でもごめんね、帰るね。明日の準備もあるし」

申し訳ない表情で謝られてしまうと、亮平も些か心が痛む。それに泊まるにしても現実問題、陽茉莉の着替えや洗面道具など何もないわけで、感情のみで無理強いするのはよくないと亮平は慌てて自分を戒めた。

「そうだな。遅くまで引き留めてごめん」

陽茉莉はふるふると首を横に振ってからゆっくりと立ち上がる。陽茉莉の方こそ本当は離れがたいのだが、そうは言ってもやはりけじめは付けるべきで。真面目な彼女故の葛藤が頭の中に渦巻く。

「送っていくよ」

「大丈夫だよ。そんなに遠くないし」

「いや、夜に女の子を一人で帰すとか、ありえない」

「ふふっ、亮平さんったら意外と紳士」

「意外と?」

「ふふっ、あははっ」

屈託なく笑う陽茉莉は夜なのに明るい。しっとりとした空気なのに、そこにだけ花が咲いたかのように華やかな空気に変わる。美しく、そして可憐だ。
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