【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
グレンが15歳を迎えるころ。
互いに成長した二人は、前のように庭で遊びまわることはなくなっていた。
グレンは、凛々しい青年として。ルイスは、小柄で愛らしい女性として。
それぞれの性別らしく育ちつつあり、二人は「男女」として扱われるようになる。
仲のいい幼馴染ではあるが、男女で、どちらにも婚約者もいない。
そのため、彼らが会うときには、間違いが起きないよう、二人きりにならないように配慮されていた。
使用人が控える公爵家のサロンで、グレンはティーカップ片手に庭を眺める。
彼は、どこか寂しそうに、遠くを見つめているようだった。
「……なあ、ルイス」
「なんでしょう、グレン様」
「自分が獣人じゃなかったら、って。思うことがあるんだ」
「……」
「ただの人間だったら、俺は……」
彼が視線をさげる。
白い耳も、彼の心情を表すかのように、ぺしゃりと垂れていた。
それから、苦しそうにルイスを見つめる。
彼は、幼馴染のルイスのことが好きだった。
身分の差については、グレンがルイスを妻にと望むなら、なんとかできるだろう。
ルイスが生まれたエアハート子爵家は、爵位こそ高くはないが、アルバーン公爵家とは長く深い付き合いで、評価も高い家系だ。
グレンが本気になれば、きっと、希望を押し通せる。
しかし、グレンは獣人。
いつか番を見つけてしまったら。彼女への想いが消えてしまったらと思うと、ルイスへの恋心を口にすることはできなかった。
好きだ。結婚したい。そんなことを言った次の日には、その想いも約束も、全てなかったことになってしまうかもしれないのだ。
グレンにとって、ルイスは本当に大切な存在だった。
だから、綺麗さっぱり消えてなくなるかもしれない気持ちで、彼女を振り回したくなかった。傷つけたくなかった。
グレンは、自分が獣人でなければよかったと、思うようになっていた。
ただの人間だったら――グレンの気持ちは、「運命の番」に操られ、急に消えたりしないのだ。