「あなたが運命の人を見つける前に、思い出をください」と一夜を共にした翌朝、私が彼の番なことが判明しました ~白銀の狼公爵の、一途すぎる溺愛~
 エアハート子爵がやってくる前日、アルバーン邸は騒然としていた。
 その理由を作ったのは、一通の手紙。

「……え? 今、なんて……?」
「……あなたたちの叔父さんが、番を見つけたそうよ」

 黒い髪に赤い瞳が印象的な、グレンの母。
 普段は凛とした印象の彼女だが、今はすっかりまいった様子で顔を覆っていた。
 グレンには、叔父がいる。公爵家を継いだのは長男だったグレンの父だから、叔父は比較的自由に暮らしていた。
 番は見つからなかったものの、想い人と結婚し、子宝にも恵まれ。
 幸せな家庭を築いており、グレンも叔父の子供たち……いとことは仲がよかった。
 夫婦仲も親子仲も良好な、穏やかな家庭だった。……はず、だったのに。

「叔父さんは、どうなったの?」
「……」

 母は、それ以上は教えてくれなかった。
 同じ獣人であるグレンには、刺激が強すぎると思ったのかもしれない。
 だが、父は……獣人のアルバーン公爵は、教えてくれた。
 グレンにとっても大切なことであると、判断したのだろう。

「あいつは、番と再婚したいと言っている。離婚ができないなら、愛人として迎え入れると」
「離婚、愛人って……。あんなに仲がよかったのに、どうして」
「番とは、そういうものなんだよ。番に出会ってしまったら、それまでの愛も恋も、全て忘れる。それだけ強力な呪いなんだ」
「でもっ……」

 アルバーン公爵は、息子の前でそっとしゃがみ、肩に触れる。
 顔の高さを合わせると、静かに、けれどはっきりと息子にこう告げた。

「グレン。獣人である以上、お前も番の呪いからは逃れられない。番以外の者と婚姻を結ぶとは、こういうことだ。覚悟して生きなさい」

 グレンは、言葉を失った。
 

 叔父の家庭は、番が見つかったことをきっかけに崩壊。
 ミリィとクラークにもすぐに伝わり、彼らは番の呪いの恐ろしさを教え込まれることとなった。
 以降、グレンがルイスに想いを伝えようとすることはなく。
 ミリィとクラークも、ルイスから距離をおくようになった。
 番に全てを書き換えられた兄と、その姿に傷つくルイスを、見たくなかったから。
 グレンの気持ちは、彼女が自身の番だとわかるその日まで、大事に大事にしまわれ続ける。
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