緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

21

 お店がお休みの日、そろそろ起きて準備しようと思っていたところに、同じくお仕事が休みのジルさんが私服姿で現れた。

 めちゃくちゃ格好良いジルさんの私服姿に、私の眠気は一瞬で吹き飛んだ。

「あ、えっと、どうぞ中にお入り下さい!」

 いつまでもジルさんを入り口で立たせておく訳には行かないと思った私は、慌てて家の中に入って貰った。
 見慣れたキッチンにジルさんが立っている……それだけでキッチンが宮殿のように華やかに見えてしまうのはどういう原理なのだろう。まあ、宮殿の中なんて見たことが無いけれど。

「む。まだアンは朝食を摂っていないのか?」

 料理をした形跡がないキッチンを見たジルさんが、名探偵の如く推理を的中させる。
 騎士団長様は休みの日でも細かいところに気が付くようだ。

「あ、はい。そうですけど……」

「俺が早く来たせいだな。すまない」

 ジルさんが申し訳無さそうな顔をする。
 でもそれは、お店が休みだからと惰眠を貪ってしまった私のせいでもあるので、ジルさんにそんな顔をさせるのは違うと思う。

< 157 / 326 >

この作品をシェア

pagetop