緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

27

 ヴェルナーさんに馬車で送って貰った後、私は花の手入れをしながら今日のことを振り返る。

(またお邪魔したいなぁ……)

 まさかお貴族様のお屋敷が、あんなに居心地がいい場所だなんて思わなかった。もっと厳格で息が詰まりそうな場所なのだろう、と偏見を持っていた自分が恥ずかしい。

 ディーステル伯爵家で過ごした時間は短かったけれど、お姉様方とフィーネちゃんたちとのお喋りはとても楽しくて。
 だけど家に戻った瞬間、私は現実に引き戻されてしまう。

 ──明かりが消えた、小さいお店を、とても寂しく感じたのだ。

 私の両親は別の国で元気に暮らしているから、天涯孤独というわけではないけれど、ずっと私は一人で暮らしている。そんな私が先程まで家族団らんの中にいたのだから、その反動が孤独感として現れてもおかしくはない。

(ま、これからしばらく忙しくなるだろうから、そんな寂しさなんてすぐに忘れちゃうだろうけど)

 未だに実感はないけれど、大役を任されたのだから精一杯頑張ろうと、心の中で気合を入れる。

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