緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

29

「ならば、俺の屋敷の温室を使えば良い。アンの温室のような術式はないが、ヘルムフリートに頼めば大丈夫だろう」

 王女様の婚儀の花が足りなくて困っていた私に、ジルさんが救いの手を差し伸べてくれた。

「ほ、本当ですか……? 本当に温室を使わせて貰えるんですか……?」

「うむ。どの花を植えれば良いのか指示してくれれば、屋敷の庭師たちが花の面倒を見てくれるだろう。ただ、アンにも時々来て貰う必要があるが」

「もちろんです! あ、植えるところは自分でやりますから、時々様子を見ていただけたら助かります!」

 花の面倒まで見て貰えると言う、とても有難い申し出に、ジルさんはもしかして神の御使いなんじゃないかと真剣に思う。

「……ああ、その場合、花に与える水はアンの魔法で作るのが良いと思う。大量に必要だと思うが、魔力は大丈夫だろうか」

「そうですね……この温室の10倍程の敷地に与えるぐらいなら大丈夫だと思いますけど……足りませんか?」

「……む。それは凄いな。いや、そこまで広くないから十分だろう」

 そうして、私は近日中にジルさんのお屋敷にお邪魔することになった。
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