緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

30

 ヴェルナーさんのお姉様方から、髪留めをくれた相手と恋人同士だと勘違いされそうになった私は慌てて否定した。

「あら、そうなの? 私はてっきり……」

「でもその人はすごくアンちゃんを気にかけてくれているのね。わざわざお守りを贈ってくれるなんて」

「最近王都の治安が悪くなっているんでしょう? それで心配しているのかもしれないわ」

「ああ、お父様もヴェルナーもそのせいで忙しいみたいね」

 お姉様方の話を聞いて、そう言えばジルさんも忙しそうだったな、と思い出す。

「婚約式まで仕事大変でしょうね〜」

「婚約式は見られないけれど、婚儀の時はお披露目会があるから楽しみだわ」

「そうそう、”銀氷の騎士団長”にお会いできる絶好の機会だって、喜んでいる令嬢が多いらしいわよ」

「ああ、彼は社交界に全く姿を見せないから。公務の時しか会えないしね」

 お姉様方の会話を聞いて「んん?」と思う。

(え? 銀氷の騎士団長……? え? ジルさんのことだよね……?)

「あの、その騎士団長さんって、英雄だと噂の……?」

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