緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

33

 私は今、かつてないほどの危機に見舞われていた。

「おいおいアンちゃんよぉ。もう売り切れちまったのか?」

「あ、ロルフさん。はい、今日の分は全て売れてしまったんですよ。そういえばプレートそのままでしたね……すみません!」

 常連のロルフさんがお店に来てくれたけれど、お店のバケツはすっかり空っぽになっていた。
 それは何故かと言うと、婚約式が終わった次の日から急にお客さんが増えて、あっという間に花が売り切れてしまうからだ。

「貴族のお使いらしき人たちが何人も来て、ごっそりと花を買い占めて行くんですよ」

「あ〜。お貴族様はなぁ……。金に糸目はつけねぇしなぁ……」

 まさかこんなことになるなんて、ちょっと前までは全く想像もしていなかった。

「私のお店の花を気に入ってくれるのは嬉しいんですけど、常連さんや普通のお客さんに申し訳なくて……」

 すぐ売り切れるからと言って、場所のこともあり花を増産することは出来ない。
 予約制にすることも考えたけれど、管理が大変だから手が回らなくなるだろうし。

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