緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

36

 暴漢に襲われそうになった私が、駆けつけてくれたヴェルナーさんに事情を説明していると、慌てた様子のジルさんが店に飛び込んできた。

「あ、ジルさん! わざわざ来てくれて有難うございます。髪留めのおかげで助かりました!」

 私がにっこり笑うと、その顔を見たジルさんは安堵した表情を浮かべ「そうか……」と優しく微笑んだ。

「……?!??」

 ジルさんの笑顔に、私が花と光の舞い散る幻影を視ていると、近くから息を呑む気配を感じた。

 私がふと隣を見ると、ヴェルナーさんがまるで信じられないものを見て驚愕したような表情をしている。

「……え、笑顔……?! え、団長、が……?」

 お姉様方の話通り、ヴェルナーさんもジルさんの笑顔を見たことがなかったようだ。ジルさんは真面目だから、きっと勤務中は一生懸命なのだろう。

「む。ヴェルナーか。ご苦労だった。後は俺に任せてお前は王宮へ戻れ」

「……っ、俺は……っ! …………っ、はい。了解しました」

 ジルさんから指示されたヴェルナーさんは、一瞬、何かを言いたそうにしていたけれど、結局何も言わず席を立った。

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