緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

37

 ふと目を覚ますと、私は見知らぬ部屋のソファーに寝かされていることに気が付いた。

「五感を元に戻しましたから、起き上がれるでしょう?」

「……え? ……っ?! フライタークさん?!」

 突然意識が戻ったところに声を掛けられた私は、驚きで慌てて飛び起きた。
 しかも目の前には私の意識を奪った張本人がいて、思わず身体を強張らせると、彼──フライタークは初めて会った時のような、穏やかな声で言った。

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ここは私の商会です。貴女から詳しくお話を伺いたくてお連れしました」

 フライタークはそう言うと、にっこりと綺麗な笑顔を浮かべるけれど、意識を失う前の狂気じみた表情を見た私は、警戒を解くことが出来ない。

「……お話ってなんですか? 引き抜きの件ならお断りしたはずですが……?」

「その件はもう諦めましたよ。……まあ、とりあえずお茶にしませんか? こちらは私が経営する製菓店『ニーダーエッガー』でお出ししているモーンクーヘンです。おかげさまで王都で大人気なのですよ」

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