緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

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 ──アンネリーエがジギスヴァルトから貰ったモーンクーヘンを食べようとしていた頃。

 アレリード王国の王宮にある地下牢に、騎士団の団長であるジギスヴァルトの姿があった。

 普段は足を運ばない地下牢にジギスヴァルトがいる理由は、アンネリーエを襲った酔っ払いたちを尋問するためだ。

「団長。どうやらコイツら全員”アクア・ヴィテ”中毒みたいですよ」

「む。”アクア・ヴィテ”だと?」

「はい、間違いありません。最近増えている中毒患者と同じ症状が出ていますから」

「……うぅむ」

 ヴェルナーから受けた報告では、彼らは初めからアンネリーエを狙っていたという。
 恐らく、以前アンネリーエの店を奪おうとしたバルチュ男爵のように、彼女の店に目を付けた貴族が首謀者で、足がつかないように貧民街の住人を雇い、彼女を襲わせたのだろう──という説が、今のところ一番有力になっている。

 ──だがしかし、とジギスヴァルトは考える。

 部下の報告に間違いがないことをジギスヴァルトは理解している。
 しかし、アンネリーエが襲われた理由がわからない。
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