緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

08

 アレリード王国の王都バルリングの中心にある、絢爛豪華な王宮の廊下を颯爽と歩く人物がいた。

 その人物は王国を守護する騎士団を統括する騎士団長で、その強さは周辺国にまで知れ渡っている。

 若くして騎士団長に叙任された彼はその美貌も相まって、貴族令嬢達の憧れの的になっていた。
 しかし彼に女っ気は全く無く、恋愛にも興味がないのか、いくら令嬢達から秋波を送られても一貫して無視している。
 だがそれが誠実で素敵だと、更に彼の好感度をあげる要素の一つとなってしまっているのは、本人にとっては迷惑以外の何物でもないだろう。

 そんな彼は暇を持て余す貴族達から常に注目され、貴族達はどの令嬢が彼の心を掴むのかと、密かに賭けを行っているという。

 余りにも女性の影がないので、「もしかして彼は極度の女性嫌いではないか?」と貴族達が勘ぐり始めた頃、ある噂が社交界を駆け巡った。

 ──それは、彼が頻繁に花束を持ってフロレンティーナ王女殿下の部屋へ通っている、と言う噂だった。

その噂を肯定するように、騎士団長の彼──ジギスヴァルトの腕には、随分と可愛らしい花束が抱えられていた。

< 54 / 326 >

この作品をシェア

pagetop