緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

09

アレリード王国の王宮にある騎士団長の執務室で、ジギスヴァルトが書類の処理を行っていた。

 団長であるジギスヴァルトは無駄を嫌う性格で、執務室は彼の性格を表すように必要最低限のものしか置いておらず、部屋を訪れる人々に殺風景な印象を与えていた──少し前までは。

 現在の執務室は、以前の殺伐としていた雰囲気から一転し、和らいだ雰囲気へと変化していた。

 ──その変化は、執務室に白い花が置かれたことがきっかけだった。

 白く上品な花弁の花は、執務室の品格を損なわず、高級な調度品と相まってすっかり部屋に馴染んでいる。
 その白い花──アルペンファイルヒェンは執務室を華やかなものにするだけでなく、部屋の主であるジギスヴァルトにも変化を与えていた。
 それはジギスヴァルトが纏う雰囲気が柔らかくなったことから始まり、アルペンファイルヒェンを愛でる彼の姿が頻繁に目撃されるようになったのだ。

 今までジギスヴァルトの存在感に圧倒され、いつも緊張でガチガチになっていた団員達が、そんな彼の姿を見て緊張を解くようになるまでそう時間はかからなかった。

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