緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

12

 私のお店の前に馬車が到着すると、御者の人が扉を開けてくれた。

 ジルさんとヘルムフリートさんが馬車から降りたので、後に続いて私も降りようとした時、外にいたジルさんが私に向かって手を伸ばしてくれる。

(……はっ!? これが噂の貴族エスコート!!)

 馬車に乗ったことが無い私は初めてのエスコートに緊張する。ちなみに小さい頃、乗った辻馬車でお父さんに手を取って貰ったのはノーカンだ。

「あ、有難うございます……っ」

 私は恐る恐るジルさんの手を取った。
 だけど、いつもの身長差が無くなった分、私は至近距離でジルさんの顔を見てしまう。

(ぎゃーー!! 眩しいーー!!!)

 ジルさんのご尊顔は間近で見るとダメな奴だった。ある程度距離を取らないと美しすぎて目が潰れてしまう。遠視か乱視ぐらいが丁度いいかもしれない。

 目がチカチカしながらも、私はしっかりとジルさんの大きな手を握って、無事馬車から降りることが出来た。
 一瞬だけだったけれど、お姫様気分を味わえて夢心地だった私は、お店の周りの騒がしさに現実に引き戻されてしまう。

< 86 / 326 >

この作品をシェア

pagetop