まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
2 文化祭に行きました。

こいつをいじめていいのは、俺だけだ



二学期が始まっても、放課後の訓練は続く。

ただ少し、気が抜けていた。

万全でない状況での訓練は、事故につながる。


イカネさんは神界で用事があるらしく、不在。

ヨモギ君はマシロ君と部屋で待機している。

しばかれる私は、自分のことに必死で。

先輩は、私の教育にマシロ君の今後と、考えることが多い。


よって、稽古場に接近する人に気付く者がいなかった。

ふいに外から差し込む光に、先輩も私も手を止める。



「あれー? そこにいるのは兄さんとお姉さん?」



「なになにー? なんでお姉ちゃんたちがここを使ってるのかな?」



火宮陽橘と天原咲耶が現れた。

稽古場で遭遇なんて、大事故だ。

先輩なんて、舌打ちをギリギリ我慢した顔をしている。

床に伏せる私の顔も、青ざめていた事だろう。


咄嗟に武器をペンダントに戻せた事は、不幸中の幸いとなるか。

彼らの近づく足音が、死刑までのカウントダウンにしか聞こえない。

私の目の前にしゃがんだ咲耶が、楽しそうに歪んだ笑みを見せる。



「お姉ちゃん、お兄さんにいじめられてるの? かわいそうー」



「弱いからって、自分より弱い人を痛めつけるなんて、火宮家の格を落とす行為。やっぱり兄さんは当主に相応しくないね」



先輩の正面に立つ火宮陽橘も、咲耶と似た顔をしていた。

その言葉、そっくりそのまま返したい。

しかし、やはりというべきか。

彼らの目にも、私はただ先輩にボコられているだけ。

稽古をつけてもらっているようには見えなかったらしい。



「稽古場の本当の使い方を、特別に見せてあげる」



瞬間、火宮陽橘の周りから炎が数本吹き上がる。

私の目指していた、火柱の術だ。



「ふぐっ!」



鮮やかな紅蓮に見惚れているところを、腹を蹴れらて壁まで飛ばされる。

私の腹を蹴った先輩はそのまま火柱に呑まれた。



「…………っ!」



「アハハハハッ!」



言葉に詰まる私を、全身を火柱に焼かれる先輩を。

見ながら咲耶は笑っていた。



「ハルくん素敵!」



「咲耶の前だからね。はりきっちゃった」



火柱が消えると、焦げ臭い匂いと煙をあげて床に倒れる先輩。



「せんぱいっ………!」



駆け寄りたくても、怖くて脚がすくむ。

ここで出て行ってどうする。

何ができる。



「つまんないや。………お姉さん、情けない兄さんの代わりに、頑張って避けてね」



先輩に興味をなくした弟君の標的が、私に移る。


もしも今、海の神、スサノオノミコトの力が使えたなら……。

前髪に手が触れた瞬間。



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