まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー



軽快な音楽と、合いの手に誘われるように足を向ければ。

吹き抜けになっている大広間特設ステージで、キラキラふわふわの服でアイドルのように歌って踊る美少女がいた。

ステージの前方では、全力でペンライトを振り回す熱狂的なファンもいる。

私達は人の少ない三階からそれらを見下ろす。



「本物のアイドル呼んだの?」



「いや、あいつは桃木野家次期当主、桃木野柚珠(ももきのゆず)だ。あれはあいつの趣味だよ」



「次期当主ってことは……」



「うちと同じ五家に数えられる名家だな」



「女の子なのに次期当主なんだね」



いや、別に偏見とかあるわけじゃないけど。



「何言ってんだお前。桃木野柚珠は男だぞ」



理解に少しばかりの時間を要した。



「…………男の娘!?」



何度見ても、そこらの女子より可愛い。



「ぱっと見騙される奴が多いんだよな……」



曲のサビで花吹雪がどこからともなく舞う。



「お前の妹とそっくりだろ」



自身のカワイイを熟知し、磨き、振り撒く。

なるほどよく似ている。



「能力も、植物関連で一緒だから、この家とは揉めそうだ」



「揉める……?」


「………なんでもない。お前は気にすんな」



火宮家のいざこざは、私にはよくわからないので、お言葉に甘えて考えないことにした。



「みんなー、ありがとー!」



「うおおおぉぉぉぉぉ!」



曲が終わり、野太い声が上がる。

ファン層は圧倒的男子。



「残念だけど、時間が来てしまいました。次が最後の曲になります」



「えええぇぇぇぇぇ!」



「ボクもさびしいよー。でも、これで終わりじゃないから。きいてください!」



そして、いっそう盛り上がる曲が始まった。


「すごい………。本物みたい」



キラキラでかわいくて、いい匂いがしてきた。

少しでも近くにと、身を乗り出そうとした瞬間。



「騙されないでねぇ。今、攻撃を受けてる」



ツクヨミノミコトに切り替わり、手すりに触れるのみで終わる。


先輩に繋がれた手に、いっそう力がこもる。



「虫を香りで誘き寄せ、捕食する。あいつらしいやり方だよ……」



「ご覧、誘われた虫の末路を」



私が指差す先、主に女子生徒達がステージに乱入し始めた。


ファンサービスの『撃って』をウインクつきで受けた人は撃たれたように倒れる。

投げキスをもらった一帯は膝から崩れ落ちた。

ステージ周りに積み重なるように倒れた彼女達は、今日のサビになると、身体から芽を生やし、一瞬にして大輪の花を咲かせる。



「人の肉体を苗床として咲く花。怖いねぇ、彼」



ツクヨミノミコトは感心するように口笛を吹いた。



「おいおい、あれ、マズくねぇの?」



「流石に手加減されてるって。死にはしないさ」



曲が終わると、教師らしき女性がステージに駆け上がった。



「コラー! 桃木野ォ! またやりやがったな!」



「せんせー、ボク悪くないよ。悪いのはボクのステージを邪魔しに入ったこの人たちでしょ」



うるうる涙目で上目遣い。

カワイイを全面にだした、カワイイ人しか許されない謝罪。

ついつい許してしまう、必殺の一撃。



「これで何度目だと思ってる。いい加減騙されないぞ」



「あいたっ」



脳天にぽこっと拳をもらい、頬を膨らませる桃木野柚珠。



「反省文三十枚だ。これからの今年の文化祭はないものと思え」



「いやぁー。せんせーの鬼ぃっ」



「そうか足りないか。反省文九十九枚に増やしてやろう」



「いやああぁぁぁぁっっ」



首根っこを掴まれて、引きずられて。

桃木野柚珠はステージを降りた。

救護班ゼッケンをつけた人たちが、花を咲かせた生徒達を回収していく。

蔦が絡み合ってほどくのが大変そうだった。


ほどなくして次のステージ発表があったものの、あれの後だ。

どうしても印象が薄い。

求心力もなく、ぎゅうぎゅうに集まっていた観客はバラバラに散った。


そして私達も、この場を離れた。



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