まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー

素晴らしい息子が欲しかった



この日の夕食は、必然的に文化祭の話題になる。



「今日、陽橘君の学校の文化祭に行ったんだろう。どうだった?」



「えっとねぇ、アタシとハル君に失礼な事を言う人がいたけど、ふたりで懲らしめてあげたの」



「そうか。咲耶は偉いな」



「でしょぉ」



父親に褒められてご満悦な咲耶。

いろいろ端折られた説明である。

どちらが先だったかなんて、不毛なことを言うわけじゃないが。

こうして誤解は広まっていくんだね、恐ろしい。

私と先輩は無言で食事を続ける。



「月海も行ったのよね。どうだった?」



母よ、ここで私にふってくるでない。

ほら、注目を奪われた咲耶が人を殺せる視線を向けてきているではないか。



「……えっと、うん、楽しかったよ」



嘘を10割。

無難な返事を返すことにした。

一般人な両親に、暗殺まがいを仕掛けられたなんて言えない。


その時、誰かのスマホが鳴った。



「……火宮さん、すみません。仕事の電話が」



「いいえ、構いませんよ」



父が部屋を出ていく。

その際、母にぶつかったようで、箸を落とした。



「ごめんなさい、新しい箸を貰いに行ってくるわね」



「案内しますわ」



私の母と火宮母が部屋を出た。

扉が閉まった後の、微妙な沈黙を破ったのは火宮当主だ。



「今日は、素晴らしい者に会ったよ」



私たちは箸を止め、話の続きを待った。



「ツクヨミノミコトの生まれ変わりと、その従者だ。従者もかなりの実力者でね。うちに勧誘したが、撒かれてしまった。……学校に問い合わせても、黒は関知していないと断られてしまったよ」



先輩、従者ですって。

こんな場面でなければ揶揄っているところだ。



「仮面をとったとしても、我の目は誤魔化せん。次見かけたら絶対に捕らえてやる」



「…………」



「何が言いたいか、わかるか。桜陰」



火宮当主が先輩を冷ややかな目で見下ろす。


冷や汗がつたう。


まずいバレたどうするどうしようどうしたらいい……。

よくて監禁、悪くて洗脳。

悪い想像ばかりが頭を支配する。



「………当主様の高尚な考えは、私のような下賎の身には計りかねます」



焦る私を尻目に、先輩は冷静に返す。

先輩らしくない丁寧な言葉。

涼しい顔をつくってはいるが、緊張しているのかもしれない。



「………スサノオノミコトの生まれ変わりを逃すお前なんかより、あんな素晴らしい息子が欲しかったと言っているんだ」



咲耶の睨みなど可愛いくらいに。

火宮当主は、当主らしい威厳を持って、親の仇でもまだ甘いくらい睨みつける。


この視線に貫かれることを恐怖するべきか。

バレてなかったと喜ぶべきか。


当主の目、節穴じゃん………。

さっきまでの不安を返して欲しい。


とまあ、こちらの感情が複雑になって、射すくめる本来の効果が十全に発揮されていない。

先輩も似たような感情だったらしい。

うっすらと余裕の笑みを浮かべていた。


いかに仮面の先輩が素晴らしかったかを嬉々として語る火宮当主。

それは、私の両親が戻ってくるまで続いた。


弟君の教室で出会った火宮当主の提案の通り、仮面を脱いで、場所を変えて会ったとしても。

この親子の和解は不可能な話だった。


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