まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


……バカなことを考えるな。


私の願望にイカネさんを付き合わせてはいけない。

勝手に期待して、希う答えが返ってこなかったからといって、裏切られたと感じるのはお門違いだ。

いいかげん学べよ、天原月海。

勝手に傷つくな。

好かれる努力をするって、決めたじゃないか。



「スサノオノミコトの生まれ変わりと知ったのは、月海さんが、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりと対峙した時です」



火宮家で、咲耶が弟君の花嫁と紹介された日のことだ。

腹を貫かれたが、スサノオノミコトの能力で治癒し、事なきを得た。



「そこがおかしいんだよ。俺たち術師が霊力を纏うように、こいつら生まれ変わりなら神力を纏っている。漏れ出る力がそいつの力だ。うちの当主はそれを見抜く眼を持っているし、神様のお前も持っているはずだろう?」



火宮当主に初めて会った時、スサノオノミコトと呼ばれたのも、弟君の文化祭でツクヨミノミコトと言い当てられたのも、その眼によるものだったのか。



「おっしゃる通りです。しかし、月海さんには当てはまらない」



「どういうことだ?」



「普通なら、漏れ出る神力によって個人を特定できますが、月海さんは、力を使う時、入れ替わりの時しか表に出ていません。普通なら、時間をかけて習得する技術。……隠蔽がとてもお上手です」



「それで、三重人格かよ……」



私に細かい霊力操作技術など無い。

先輩の言うように、三重人格が表現としては正しいのだろう。

私が天原月海である時は、一般人の気配しかなく。

ツクヨミノミコトが出た時はツクヨミノミコトの神力を、スサノオノミコトが出ればスサノオノミコトの神力を纏っているのだ。

だから、イカネさんも火宮当主も、今の私を見ても生まれ変わりと気付かない。



「わたくしに言わせれば、常に霊力を垂れ流すなんて、三流の所業ですが」



「………言うねぇ」



イカネさんと先輩は見つめ合い、同時に微笑した。

この一瞬でどんなやり取りがあったのか。

怖い。



「召喚に応じたのは、偶然です。わたくしの手の空いている時、わたくしの目の前に召喚の扉が現れました……」



「お前ほどの神が直々に来なくても、近くに他の神もいただろう。なぜそいつらに行かせなかった?」



「確かに、いました。いましたが、わたくしは月海さんの開く扉に惹かれたんです。他の誰にも渡したくないと思うほどに……」



彼女は私の前に跪き、崇めるように見上げた。



「わたくしは、月海さんが好きです。信じてくださいますか?」



「信じますよ。イカネさんは友達だもん」



私は迷わず即答した。



「お前、騙されてるぞ」



「やかましい」



先輩がなんか言ってるが、イカネさんが私を騙す理由などないでしょう。

イカネさんの顔は、緊張していたものから、ほっとした中に、申し訳なさそうなものが混じる。

騙しているのではなく、全てを話していないだけだと思う。

しかし、隠し事があるから友達じゃないなんて、言うつもりはない。


少なくとも、今彼女の語ったことは本当だ。

彼女の判断で語らないことを、無理に聞き出す必要なんてない。

イカネさんが私の友達でいてくれる限り、私はイカネさんの味方であり続けたい。


異論は許さない。

内側で文句を言うツクヨミさんを一蹴する。

しぶしぶではあるものの、引き下がってくれたようだ。

お姉さんの側近で、思うところもあるのでしょうが、私の友達でもあるのです。

見方を変えて、仲良くなってくれたら嬉しいと思う。



「イカネさんに騙されるなら本望です」



「月海さん……」



「このバカ………」



先輩にかわいそうなものを見る目を向けられたとしても、痛くも痒くもないもんね。

私にとっての最優先は、イカネさんの笑顔なのだから。



「そんな顔しないで、笑ってください。イカネさんには笑っていてほしいんです」



目線を合わせて頬を撫でると、儚げな笑みを見せてくれた。

彼女になら騙されてもいいって、割と本気で思っている私がいる。

ただし、本当に騙されていたら泣くよ。

絶対。


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