まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
美しい旋律に、皆が聴き惚れる。
伴奏もないはずなのに、波の音が聞こえて来るようだ。
凪が荒れて嵐になり、海上の豪雨、渦潮、竜巻、雷の柱が海を裂く。
そんな中聞こえるのは、船人の標である希望の歌声。
……という幻覚が見えた気がした。
「グ、グアアアァァァ……」
巨人が苦しそうにうめく。
「効いてる……」
「響のやつ、とんでもない技を隠し持っていやがったな」
「これ、変な音波でもでてんの? ボクたちも耳塞いだ方がいい系?」
「標的はあの巨人だ。気にすることはない」
私達の周囲に集まり、戸惑う次期当主達に、ツクヨミノミコトが説明する。
「歌は祝詞。その歌声を聴いた者は破滅する、ローレライのようだねぇ」
巨人が苦しみ、霊力が小さくなるとともに、その巨体も縮んでいく。
軽くなって、余裕が出てきた。
「よし! このまま元に戻せたら……」
先輩が刀に手をかける。
次期当主達も、次の術に備え霊力を高める。
その時。
門付近の集団から歓声が起こった。
「何があった!?」
見ると、当主達が結界のヒビを狙って攻撃を続けていた。
「結界にヒビが入った!」
「もうすぐだ!」
「もうすぐここから逃げられる!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼らを、私たちは冷めた目で見ていた。
「あの人たちバカなの?」
「下手したら、外に被害が出ちゃうじゃん」
「結界の修復は専門外だぞ」
「一刻も早く、巨人を討伐するしかない」
彼らに応えるように、巨人を無力化しようとする響が、ローレライの歌声に込める霊力を強める。
ツクヨミノミコトも、浮かすだけでなく、潰そうと力を込めた。
「くっ、そ。しぶといっ、なあっ………」
縮んできてはきるものの、まだまだ巨人。
こちらの攻撃は通らないと見ていいだろう。
結界には、屋敷内の事象を外に漏らさない効果がある。
たとえ屋敷が燃えていても、水浸しになろうと、外から見れば、何事もない屋敷がそこにあるだけだ。
もし、今結界が消えてしまえば、現状がそのまま見られてしまう。
夜中、住宅街に、いきなり巨人が現れた。
事件である。
オカルト関係に追われるならまだいい。
いやよくないけど、追われるだけなら撒けるはず。
下手したら、研究所に捕まって、それこそ実験動物扱いだ。
ごめん被りたい。
そんな私の焦りを嘲笑うかのように、結界が破られた。