転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
第十二章 波乱の鷹狩り

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 鷹狩り当日は、晴天に恵まれた。ジョゼフ五世陛下以下、参加した貴族らは、王領の森で狩りを楽しんでおられる。のびのびと……と言いたいところだが、恐らくは、政治的駆け引きや思惑が交錯していることだろう。



 私たち女性陣は、地面に広げられたシートに腰を下ろして、そんな彼らを遠目で見守っていた。給仕たちは、狩りが終わったら食事を始められるよう、黙々と支度をしている。国王陛下ご主催とあって、それは豪華なメニューだ。楽師たちも到着し、演奏の準備を始めている。予想以上に盛大なイベントだわ、と私は感心した。



 私以外の女性たちは、噂話に興じたり、自分の身だしなみを熱心にチェックしたりしている。そんな中、私は一人、考え事にふけっていた。脳裏を占めていたのは、ピエールの妻宛の手記だった。『子供を授けてやれなくて申し訳なかった』『すべてタバインのせいだ』という文言が、気になって仕方なかったのである。



(タバインには、男性の不妊を招くような副作用があったのでは……?)



 この現世では、男性不妊などという概念は無いから、ピエールの妻やアルベール様、エミールらは、ピンときていない様子である。だが、前世日本では、無精子症など、男性側が原因で子供ができないケースもあることが知られていた。



 それに手記には、シモーヌ夫人にもタバインを与えた、とあった。彼女もまた、前夫との間に子供は無かったのだ。夫人はさる伯爵と結婚していたのだが、浪費の限りを尽くし、挙げ句彼が亡くなると、遺産をもらってさっさとバール男爵とくっついた。金目当ての結婚だったことは、誰の目にも明らかだったものだ。となれば、子供など要らなかったことだろう。



(シモーヌ夫人は、子供を作らないために、夫にタバインを使った可能性があるわ……)



 仮にタバインが、男性不妊をもたらすとすれば。同じく常用していたバール男爵も、その影響を受けていたはずだ。手記には、『オーギュストは好都合と喜んで』とあったではないか。いくら女遊びをしても、子供ができる心配が無いから、という意味ではないのか。



(それならば。アルベール様は、バール男爵の子供ではあり得ないわ……)



 彼は、ご自分が男爵の子ではないかと、長年苦しんできた。彼を救う光が差した気がして、私は、ピエールが遺した調香記録を熟読した。



 しかしそこには、期待したような記述は無かった。私は諦めることなく、屋敷にある、ありとあらゆる書物もひもといてみた。だが、どれだけ調べても、タバインと男性不妊を結びつける説明は出てこなかったのである……。

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