転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

8

 二日後の夜、私はマルク殿下の計らいで、王宮を抜け出した。殿下の忠臣・ベルナール様の手引きで、ドニ殿下がいらっしゃる離宮へと忍んで行く。文字通り、王宮から少し離れた所にある、小さな城だ。造りも質素かつシンプルで、慎ましやかだったというシュザンヌ妃のお人柄を象徴しているようだった。



(お母様の思い出の場所で、殿下、あなたは殺人計画を練っていたというの? お願いだから、これ以上殺人を重ねないで……)



「モニク嬢、こちらへどうぞ」



 ベルナール様は、私に裏門を案内した。



「この城は元々、警備が手薄なのです。ここからなら、見とがめられずに入り込めますよ。内部の構造は、もう大丈夫ですね?」

「ええ、ばっちりですわ」



 マルク殿下は、私に離宮内部の見取り図をご用意くださった。私はそれを、完璧に頭に叩き込んだのである。



「では、ご武運を」



 (いくさ)に出かける男性にかけるような言葉で見送られ、私は一人、城内へと入って行ったのだった。



 城内は、ひっそりとしていた。謹慎中のドニ殿下には、最低限の使用人しか付けられていない。その彼らももう、仕事を終えて寝静まっている様子である。



 叩き込んだ見取り図を頼りに、私は殿下の寝室へと向かった。ノックをすると、しばらくして扉が開いた。すでに寝間着に着替えられた殿下が、姿を現す。



「こんな時間に、何の……」



 使用人がやって来たと勘違いされたらしい。不機嫌そうにそう口走りかけて、ドニ殿下は目を見張られた。



「モニク嬢!?」

「来てしまって、ごめんなさい」



 私は、しおらしく頭を下げた。



「一目、殿下にお会いしたくて、我慢できなかったのですわ」



 警戒心を持たせないよう、私は熱っぽく彼を見つめて訴えた。



「お部屋へ入れていただいても、いいかしら? こちらにご招待くださると、仰っていたでしょう?」

「いや……、しかし。あなたは、兄上の婚約者に決まられたのでしょう? それは、いけませんよ」



 この離宮にも、すでに情報は行き渡っているようだった。でも、と私は言い募った。一世一代の、演技である。



「あれは、国王陛下のご命令で、仕方なくですわ。鷹狩りの時は、まだ決心が付きませんでした。でも、こうしてお会いすることも叶わなくなって、ようやく自分の気持ちがわかりました。私が愛しているのは、殿下、あなたですわ!」

「……そこまで言ってくださるなんて」



 ドニ殿下は、扉を大きく開けた。私を、室内へと誘う。拒絶したのは、やはりポーズだったらしい。私は、足を踏み入れた。背後で、扉が静かに閉まる。



(もう、引き返せないわ……)
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