転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

2

(うう。これは、いつまで経っても慣れないわ……)



 数分後。私はアルベール様のベッド脇に腰かけて、彼の口元に食事を運んでいた。右腕が使えないアルベール様のために、私は毎回料理を食べさせてあげているのだ。いわゆる、「あーん」というやつ。顔を真っ赤にして、スプーンでスープをすくう私を、アルベール様は可笑しそうに眺めている。



「いい加減、慣れたらどうですか?」



 堪えきれなくなったのか、彼が笑う。



「もっと恥ずかしいことなら、してきたと思うけれど。人前でキスとか、野外でキスとか。それに比べれば、誰も見ていないでしょ?」

「恥ずかしさの種類が違うんです……。というか、それってどちらも、アルベール様が仕掛けたことではないですか!」



 とはいえ、負傷の原因が私だけに、拒否はしづらい。かくなる上は意識を無にしよう、と私は機械的にスプーンの往復を続けた。アルベール様は、そんな私をチラと見やると、こう言い出した。



「パンも食べたいのだけれど」



(パンなら、左手で食べられますわよね……?)



 文句が、喉元まで出かかる。それを察したのか、彼は催促するように私の名を呼んだ。



「モニク?」

「……はい」



 渋々、ちぎって口元へ運ぶ。それこそ口づけなら何度も交わしているのに、こうして改めて唇を見つめると、何だかおかしな気分になる。時々悪態も飛び出す、でもとても形が良くてセクシーな唇……。



(嫌なわけではないのよ。ただ、いたたまれないだけなの……)



 アルベール様は、そんな私の顔をまじまじと見つめてらっしゃる。明らかに、面白がっている様子だ。挙げ句、こんなことまで言い出した。



「じゃあ次は、ワインかな」

「アルベール様」



 さすがに頭にきた私は、彼をにらみつけた。



「命を救っていただいたのは、感謝しておりますわよ? それも、一日に二度も。でもね、どう考えてもワイングラスは、左手で持てますわよね?」

「でもねえ」



 アルベール様が、わざとらしく首をかしげる。



「右腕がつかえない分、左腕に負荷をかけすぎるのはよろしくないと、お医者様は仰っていたけれど?」

「……それ、本当ですの?」



 私は、眉間に皺を寄せた。仮に本当だったところで、ワイングラスごときで負荷がかかるとは、とうてい思えないのだけれど。アルベール様とグラスを見比べて沈黙していると、咳払いが聞こえた。



(ああ、もう……!)



 心の中で悪態をつきながら、グラスをアルベール様の口元へ持って行く。だが彼は、口をつけようとしなかった。



「そうじゃない」
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