転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

16

 ややあって、国王陛下は優しく微笑された。



「とんでもない。愛し合う二人が結ばれることほど、喜ばしいことは無い……。それにモニク嬢は、本当に活躍してくれた。褒美は、当然のことだ」



 どうやら、結婚をお認めになることに、変わりは無いらしい。私は、ほっと胸を撫で下ろした。そして、と陛下が続けられる。



「アルベール殿。そなたにも、褒美を遣わそう。この度の一連の事件解決には、そなたの活躍が大きかったと聞く。何なりと、願いを申すがよい」



(まあ、今回のお呼び出しは、そのことを仰るためだったのね……)



 私は、顔がほころぶのを抑えきれなかった。一方アルベール様は、恐縮したご様子だった。



「とんでもありません。実際に体を張ったのはモニク嬢でございますし、事件を解決できたのは、マルク殿下、そしてモンタギュー侯爵始め、王立騎士団の皆様のご協力があってこそ。そのお言葉だけで、十分でございます」



 陛下は、ますますにこにこされた。



「夫婦そろって、謙虚なことよ……。アルベール殿は、自分からは願いを言いづらいと見える。どうだ、ミレー殿。そなたが代わりに申してはどうかな?」



 陛下が、ミレー公爵をご覧になる。かしこまりました、と公爵は仰った。何だか、ひどく険しい表情でいらっしゃる。



「アルベール様。私はあなたに、謝らなければなりません。私は長い間、あなたの出生について伏せて参りました。さぞ、お辛かったことでしょう」



(一体、どういうこと……?)



 なぜミレー公爵は、この場でアルベール様の出生の話を始められるのか。そして、彼に対する、このかしこまった口調は何なのか。公爵が、苦しげな表情で言葉をつむがれる。



「あなたのお母上は、エレーヌ・ド・クイユ伯爵令嬢。それは、お伝えした通りでございます。ですがお父上については、私は口を閉ざしてきました。あなたは、ずっと知りたがっておられたでしょう。それゆえ、クイユ家に出入りなさった」



 アルベール様のお顔に、一瞬動揺が走る。私も驚いた。父親のことを調べる目的で、彼がクイユ家に接近したことを、ミレー公爵はご存じだったのか。



「私が隠し続けたのは、当のあなたのお父上に、固く口止めされていたからでございます。彼は、エレーヌ嬢と交際されていたのですが……」

「もう結構でございます」



 アルベール様は、静かにミレー公爵のお言葉をさえぎられた。



「確かに、ずっと知りたいと思って参りました。でももはや、それは些末なことにしか感じられません。私の両親は、育ててくださったあなた方ご夫妻。そしてこれからは、モニクと新しい家庭を築きます。私という子をもうけながら、あなた方に託し、なおかつ口止めなさるなど、ろくでもない男に決まっております。そのような男のことなど、私の意識には、もうございません」



 そのとたん、ミレー公爵のお顔からは、サーッと血の気が引いた。同時に、おそるおそるジョゼフ五世陛下を見やる。陛下は、咳払いをして仰った。



「私が、そのろくでもない男だ」
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