転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 マルク殿下の危篤の知らせを受けて、私とアルベール様は、すぐに王宮へと駆け付けた。殿下のベッドの周囲には、主治医の他、ジョゼフ五世陛下とエミールの姿があった。ローズは、見当たらない。仮にも妻である彼女が入らせてもらえないのに、他人の私が部屋に入ってよいものか躊躇したが、陛下は入るよう仰った。



「アルベール……、モニク……」



 マルク殿下は、私たちが入室すると、うっすら目を開けられた。お顔は真っ青で、呼吸も苦しそうだ。だが、アルベール様の姿を捉えられたとたん、殿下はカッと目を見開かれた。



「私はね……、この前、ドニの幽閉先へ、会いに行ったのです」



 アルベール様を見つめて、殿下が仰る。しっかりとされた口調だった。



「思った、通りだった……。あいつは、恐ろしい奴だ。幽閉の身でも、王位を諦めていなかった……。アルベールとエミールの存在を知らせたら、真っ青になっていましたよ……」



 ふふ、と殿下が笑われる。そして、激しく咳き込まれた。国王陛下が、沈痛の表情を浮かべられる。



「マルク、もう喋るな」

「父上」



 マルク殿下は、キッと陛下を見つめられた。



「私はね、やり遂げましたよ……。モルフォア王国王太子として、最後の仕事(・・・・・)を……」



 そう仰ったきり、殿下はまた瞳を閉じられた。陛下が、殿下の手を取られる。



「しっかりしろ! 私より、先に逝くな……」

「兄上」

「マルク兄上」



 アルベール様とエミールも、殿下に呼びかける。アルベール様は、殿下のもう片方の手を握られた。



「王位を継いで欲しいという兄上のご期待に応えられず、申し訳ございませんでした。ですが私は、王立騎士団の一員として、このモルフォア王国を守り、盛り立てて参ります。……国王陛下と、エミールと共に……」



 堪えきれなくなったのか、エミールがしゃくり上げ始める。アルベール様は、そんなエミールを励ますように、肩を抱いた。国王陛下は、お辛そうに下を向かれた。



 一瞬、マルク殿下の唇が動く。私の耳には、「まかせた」と仰ったように聞こえた。そしてそれきり、殿下はぴくりとも動かなくなった。



 主治医が脈を取り、「ご臨終です」と告げる。私も、もう涙を我慢できなかった。そっとハンケチで目頭を押さえれば、アルベール様はもう片方の手で、私を抱き寄せてくださった。



 室内にはエミールの泣き声だけが、いつまでも響き渡っていた。
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