転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

4

「それに。論理的にも、あなたが犯人という説は成り立ちませんよ」



 アルベール様は、きびきびと仰った。



「その手袋とショール、一週間前に無くしたきりなのでしょう? だったら、あの日あなたが、それを身に着けて犯行に及ぶことはできない。そりゃ、当日発見して、それをまとって殺人を行い、その記憶が抜け落ちているという可能性もゼロでは無いが。それだとあなたは、それを中庭へ埋めに行ってから、わざわざ犯行現場へ戻って倒れていたことになる。そんな馬鹿な真似をする殺人者が、どこにいます?」



 仰る通りだ、と私は納得した。コレットも大きく頷いている。



「で、あなたではないという前提で、話を戻しますが。あなたの装飾品を持ち出せる、しかも現場で女が目撃された、ということを考えると、やはり侍女が怪しいでしょう」

「でも、アンバーでは辻褄が合わないですわよね。でしたら、他の侍女……?」



 コレットが口を挟む。だがアルベール様は、すぐには肯定しなかった。



「アンバーの線も、捨てきれませんよ。そうなると、以前から計画していた、ということになりますが」

「じゃあアンバーは、男爵と夫人が殺されるのを知っていた、ということですわよね?」



 私は、眉をひそめた。アンバーに、そんな裏の顔があったのだろうか……。



「アンバーは、真犯人の協力者、もしくは彼女自身が犯人、という可能性もありますね」



 アルベール様は、何でも無いことのように仰る。私はぎょっとした。



「アンバーが犯人ですって?」

「ええ。女性でも可能な犯行でしょう? だから現に、あなたは疑われているのだし……。アンバーと二人との繋がりは不明だが、何せバール男爵は、女癖の悪い男だ。どんな女性に恨みを買っていようが、俺は驚きませんね」



 アルベール様は、吐き捨てるように仰った。そこには必要以上の嫌悪がにじみ出ている気がして、私は違和感を覚えた。



(どうして彼はそれほどまでに、バール男爵を悪し様に罵るのかしら……)



 コレットは、そんなアルベール様と私の顔を見比べていたが、不意に陽気な声を上げた。



「大体、可能性は絞れてきましたわね。アンバーは真犯人、アンバーは犯人の協力者、アンバー以外の侍女が、モニク様を陥れようとしている。……取りあえず私は、他の侍女たちに、アンバーについて聞き込みをしてみますね!」

「男関係について、聞いてみてくれ。犯人が男だった場合、アンバーはその恋人という可能性がある」



 アルベール様は、そう付け加えると、私をチラと見た。



「アンバーの行方は?」

「他の侍女たちに聞いたところ、郷里へ帰ると言っていたそうですが。短剣を父の所へ持って行った後、いつの間にか屋敷を抜け出たそうで。足取りがつかめないのですわ」

「使えねえな、サリアン伯爵」



 呟いた後で、アルベール様はしまったという顔をなさった。
< 32 / 228 >

この作品をシェア

pagetop