転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 思わずアルベール様の方を見やれば、彼もさすがに困惑した様子だった。



「母上、いきなり何を仰っているんです? サリアン家からは婚約の保留を言い渡されましたし、第一、初顔合わせで言うべきことではないでしょう」

「あなたが女性を家に招くなんて、初めてじゃないの。てっきり、そういうつもりかと思うでしょう?」



 ミレー夫人は、軽く口を尖らせると、私に座るよう促した。私とアルベール様は、夫妻と向き合ってソファに腰かけた。夫人が、再び語り始める。



「それに。ただ女性を連れて来たから、というだけじゃないわ。モニク嬢だから、嬉しかったのよ。本当に素敵なお嬢さんですもの」

「……そんな、もったいないお言葉ですわ。どうして、そんな風に仰ってくださるのでしょう……」



 私に疑いの目を向けられたマルク殿下に、怒っておられたともいう。恐縮する以前に、私は不思議に思った。そこまで信用していただけるほどの面識は、そもそも無いはずなのだけれど。すると夫人は、可笑しそうに笑われた。



「あら、覚えてらっしゃらないのかしら? 昨年の春に催された宮廷晩餐会で、私にグリーンのショールをくださったでしょう?」



 あっと、思い出した。確かにその晩餐会で、私はミレー夫人とご一緒させていただいた。その際、私は彼女が、しきりに肩を押さえているのに気付いたのだ。



(肩がお悪いのかしら? 痛みには、寒さはよろしくないと聞いたわ……)



 その日は、やや肌寒かった。私は給仕に耳打ちして、自分が身に着けていたショールを、彼女に託すよう告げた。そしてそのまま、会場を辞したのだった……。



「思い出されたようね? お名前も仰らずにいなくなってしまわれるものですから、ずいぶんお捜ししましたのよ」

「……申し訳ございません」



 華やかな場が苦手な私としては、早く帰りたかっただけなのだけれど。下手に名乗って、社交するはめになるのも避けたかったし。



「給仕に容貌や服装を尋ねて、いろいろ調べたところ、どうやらサリアン伯爵のご長女らしいと。でも、それきりご一緒する機会が無かったので、お返ししそびれていたのですわ。良い機会ですし、今日お返ししますわね」



 夫人は侍女を呼びつけると、ショールを持って来させた。確かに、私が給仕にことづけた品だ。いつでも返せるようにと思われたのだろうか、それは綺麗に手入れされていた。



「心優しいだけでなく、奥ゆかしいご令嬢だと、感激しましたの。アルベールがあなたを連れて来ると聞いて、これは運命かと思いましたわ」



 ミレー夫人は、優しく私を見つめられた。
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