転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「それが、急に姿が見えなくなってしまったのよ。先ほどまで、いたのだけれど」



 ミレー夫人が、首をかしげる。公爵は、舌打ちなさった。



「しょうがない奴だな……。まあいい。せっかく来ていただいたのだ。モニク嬢、どうかくつろいでいってください。そして是非、あなたのお話を聞かせていただきたい。普段は、何をして過ごされているのです?」



 メイドが、お茶とお菓子を運んで来る。私は、ぽつぽつと自分のことを語った。趣味は読書と、植物を愛でることだ、などなど。我ながらつまらないなあと思ったが、夫妻は真剣に耳を傾けてくださった。アルベール様も同様である。



「音楽はお好きですか?」



 一通り話し終えると、アルベール様がそう尋ねられた。



「ええ。母が生きていた頃は、時折楽師を招いたものですわ」



 バルバラ様を後妻にお迎えしてからは、そんなこともとんと無くなった。彼女は、音楽に一切関心が無いのである。



「それはよかった。私は、リュートが得意でしてね。よろしければ、是非一曲、奏でて差し上げたいのですが」

「まあ、アルベール様が?」



 そんな特技をお持ちだなんて、初耳だった。補足するように、ミレー夫人が説明なさる。



「武芸ばかりで情緒を理解しない人間に、育って欲しくなかったのよ。それで、芸術にも積極的に関わらせたのだけれど……。でも、アルベール。私どもは、あなたの演奏は聞き飽きていましてよ?」



 アルベール様が、苦笑なさる。



「聞き飽きたとは、ひどいお言葉ですが……。それでしたら、モニク嬢だけにお聴かせしましょうか。彼女を、私の部屋にご案内しても?」

「是非、そうしなさい」



 口をそろえて、夫妻が仰る。どうやら彼らは、私とアルベール様を二人きりにさせたいようだった。



「では、そうさせていただきましょうか……。モニク嬢、どうぞこちらへ」



 アルベール様が席を立ち、私を促される。私は、夫妻に丁重にご挨拶申し上げると、彼に手を引かれて応接間を辞した。
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