転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「モニクお嬢様?」



 モーリスが、不審そうにする。私は、慌ててかぶりを振った。



「いえ、何でも無いわ……。クイユ家は……、エレーヌ嬢は、その後どうなったの?」

「心労がたたられたのでしょう。ご当主ご夫妻は、自らお命を絶たれました」



 私は、言葉を失った。気の毒そうな表情で、モーリスが続ける。



「残されたエレーヌ嬢は、気丈な方でした。自らの恥を隠し通して、妹君をしかるべき家に嫁がせました。彼女はお子様にも恵まれ、お幸せになられたそうです」



 その子供というのがコレットか、と私は思った。そういえば彼女は、私がアルベール様の父親について尋ねた際、答えたくなさそうだった。恐らく、事情を承知していたのだろう。



「そして、遠縁の男性に白羽の矢を立て、彼にクイユ伯爵家を継がせました。その後、領内から資源が発掘されたことで、同家は盛り返すことができました。今は、繁栄されてらっしゃるご様子で、何よりですが……。パーティーにいらっしゃったのは、その跡を継がれた男性ですね」



 モーリスが、リストを指す。彼が犯人ではないだろうな、と私は思った。彼自身が、悲惨な思いをさせられたわけではない。こう言っては何だが、棚ぼた的に伯爵家を継げて、むしろラッキーだったくらいではないか……。



「……エレーヌ嬢の、その後は?」



 モーリスが、黙ってかぶりを振る。



「使用人たちに暇を出してしまわれたため、知人の執事も知らないそうです。彼も、ひどく心配していたのですが……」



 きっと、アルベール様を出産され、その後亡くなられたのだろう。考えまいと思うのに、私は悪い方に想像せずにはおれなかった。アルベール様は、きっとバール男爵を恨んでおいでだろう。祖父母を苦しめ、自殺に追い込み、母親を手込めにした。実の父親とはいえ、殺意が湧かないと言えるだろうか。



 ――バール男爵が、大嫌いだからです。

 ――こんなクズ、殺されて当然ですよ。



 アルベール様の台詞が蘇る。それにドニ殿下は、あのパーティーの夜、アルベール様は長らく会場にいなかったと仰っていた。



(まさか……)



 最悪の想像に、私は身を震わせたのだった。
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